外国人起業活動の解説(特定活動44号)
目次
はじめに
「日本の大学で学んだ知識を活かして、そのまま日本で起業したい」
「卒業と同時に経営管理ビザを取るのはハードルが高すぎる…」
「『特定活動44号』を使えば最長2年の準備期間がもらえると聞いたが、自分が対象かわからない」
これらは、日本での起業という野心的な夢を持つ留学生の皆様から、私たちが日々お受けする切実なご相談です。
2025年10月現在、外国人留学生の起業支援環境は以前に比べて格段に整備されました。しかし、その中心となる在留資格「特定活動44号(本邦大学卒業者等の起業活動)」は、要件が細分化されており、正しく理解していないとチャンスを逃してしまう複雑な制度でもあります。
通常、外国人が日本で起業するには「経営・管理」ビザが必要ですが、これには「資本金3,000万円」や「3年以上の経営経験」といった極めて高いハードルがあり、学生が卒業と同時にこれらを満たすのは至難の業です。特に2025年10月の法改正により、その要件はかつてないほど厳格化されました。
そこで活用すべきなのが、この「特定活動44号」です。結論から申し上げますと、この制度は条件を満たす留学生に対し、卒業後、最長2年間、日本に在留しながら起業準備を行うことを認める画期的な仕組みです。
この記事では、ビザ申請の専門家である行政書士が、2025年10月時点の最新法令に基づき、特定活動44号の全容を徹底解説します。「パターン別」の対象者判定から、大学との連携方法、申請の具体的なステップまで網羅しました。
この記事を読めば、あなたが日本で社長になるための「最短ルート」が明確に見えてくるはずです。
留学生が直面する「卒業と起業」の壁
まず、なぜこの「特定活動44号」という制度が必要なのか、留学生が直面する現実的な課題から整理しましょう。
多くの留学生が、「留学ビザの期限が残っていれば、卒業後も日本にいて起業準備ができる」と誤解しています。しかし、これは大きな間違いです。「留学」ビザはあくまで「教育機関で教育を受けること」を目的とした資格であり、卒業(または退学)した時点でその根拠を失います。卒業後に、就職活動や進学準備以外の目的で漫然と滞在することは認められず、最悪の場合、在留資格取消の対象にもなり得ます。
では、卒業と同時に「経営・管理」ビザに切り替えれば良いではないか、と思われるかもしれません。しかし、2025年10月16日の改正以降、「経営・管理」ビザの取得要件は劇的に厳しくなりました。
- 3,000万円以上の資本金(以前は500万円)
- 3年以上の経営経験または修士号以上の学位
- 常勤職員1名以上の雇用義務化
これらを在学中に、学業と並行して完璧に準備するのは現実的ではありません。
こうした「卒業と起業の間のギャップ」を埋めるために創設されたのが、今回解説する「特定活動44号」です。これは、留学生が合法的に日本に留まり、大学の支援を受けながら起業準備を行うための「唯一の架け橋」なのです。
「特定活動44号(本邦大学卒業者等の起業活動)」とは何か?
制度の概要と目的
「特定活動44号」の正式名称は、在留資格「特定活動(本邦大学卒業者等の起業活動)」と言います。
この制度は、日本の大学等を卒業した留学生が、卒業直後に「経営・管理」ビザの要件を満たせない場合でも、卒業後に日本に留まって「起業準備」を行うことを特別に許可するものです。日本政府の成長戦略の一環として、優秀な外国人留学生の起業を促進し、イノベーションを創出することを目的としています。
「経営・管理」ビザとの決定的な違い
最大の違いは、「活動の内容」です。
- 経営・管理ビザ: 実際に事業の経営・管理を行っていること(既に会社があり、稼働している状態)が求められます。
- 特定活動44号: 起業に向けた「準備活動」そのものが認められます。
【特定活動44号で認められる具体的な活動】
- 法人設立に向けた市場調査、事業計画のブラッシュアップ
- 事務所や店舗物件の探索・契約交渉
- 資金調達活動(銀行融資、VCや個人投資家へのプレゼン)
- 会社設立の定款作成・登記手続き
- 共同創業者や従業員の採用活動
- 製品・サービスの試作開発やテストマーケティング
つまり、まだ会社ができていなくても、資金が3,000万円集まっていなくても、「準備をするためのビザ」として許可されるのです。
あなたは対象?【2つの申請パターン】を徹底比較
特定活動44号を理解する上で最も重要なのが、「どの大学を卒業したか」によって、在留期間や要件が大きく異なるという点です。現在は大きく分けて2つのパターンが存在します。
パターン1:一般の大学卒業者(最長6ヶ月)
これは、従来の制度に基づく基本的な枠組みです。
- 対象者: 日本の4年制大学、大学院の卒業者(短大は対象外の場合が多いですが、要確認)
- 在留期間: 最長6ヶ月(原則として更新不可)
- 特徴: 期間が短いため、卒業時点で相当程度準備が進んでおり、「あと少しで会社設立ができる」という状態の人向けです。
【主な要件】
- 在学中から起業活動を行っており、卒業後も継続する必要があること。
- 資金調達や店舗確保の目処が立っていること。
- 直前まで在籍していた大学からの推薦状があること。
正直なところ、6ヶ月という期間は非常に短く、更新も原則認められないため、ゼロから準備を始めるには不向きです。
パターン2:支援対象校の卒業者(最長2年)
現在、多くの留学生が目指すべきはこちらのパターンです。国が認定した「留学生の就職・起業支援に熱心な大学」を卒業した場合、最長で2年間(6ヶ月ごとの更新)の準備期間が認められます。
- 対象者: 以下の事業に採択された大学等の卒業者
- 文部科学省「留学生就職促進プログラム」採択校
- 文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援事業」採択校
- 文部科学省「大学教育再生戦略推進費(卓越大学院プログラム)」
- その他、大学等が自治体等と連携し、支援体制があると入管が認めた場合
- 在留期間: 最長2年
- 特徴: じっくりと時間をかけて事業計画を練り上げ、資金調達やパートナー探しを行うことができます。
この「パターン2」を利用できるかどうかが、成功の鍵を握ると言っても過言ではありません。ご自身の大学が対象校かどうかは、大学のキャリアセンターや国際交流課に必ず確認してください。
許可を勝ち取るための【3つの主要要件】
特定活動44号の許可を得るためには、申請者個人の能力だけでなく、「大学」と「事業計画」の質が問われます。以下の3つの側面から要件を満たす必要があります。
申請者本人の要件
- 対象となる学校の卒業: 上記の通り、大学、大学院、短大、高専、または専門学校(専門士の称号が必要)を卒業・修了していること。
- 「留学」ビザからの変更: 申請直前まで「留学」の在留資格を有していること。
- 経費支弁能力: 起業準備期間中の生活費(家賃、食費等)を賄えるだけの預貯金があること。起業準備中は原則として就労(アルバイト)は推奨されないため、親族からの送金や自己資金の証明が必須です。
- 素行善良: 在学中の出席率が悪い、オーバーワーク(資格外活動違反)がある、犯罪歴があるといった場合は不許可になるリスクが高いです。
大学等(支援機関)の要件
このビザは「大学が面倒を見る」ことを前提に許可されます。したがって、大学側に以下の体制が整っている必要があります。
- 推薦状の発行: 大学が学生の資質と事業の将来性を認め、「推薦」すること。
- 起業活動支援計画の策定: 大学が「どのように学生をサポートするか」という具体的な計画書(支援計画書)を作成し、入管へ提出すること。
- 例:メンターによる月1回の指導、インキュベーションオフィスの無償貸与、ビジネスコンテストへの参加推奨など。
- 進捗管理と報告: ビザ取得後も、大学は定期的に学生と面談し、活動状況を把握する義務を負います。
事業計画の要件
「とりあえず起業したい」という抽象的な願望では通りません。
- 具体性: ターゲット市場、競合優位性、収益モデルが明確であること。
- 実現可能性: 2年後の「経営・管理」ビザ変更時に、改正後の新要件(資本金3,000万円等)を満たせる根拠があること。
似て非なる制度:「自治体スタートアップビザ」との違い
よく混同される制度に、地方自治体が主導する「外国人起業活動促進事業(通称:スタートアップビザ)」があります。どちらも「特定活動」ですが、窓口や要件が異なります。
| 項目 | 特定活動44号(本邦大学卒業者等) | スタートアップビザ(自治体) |
|---|---|---|
| 申請の窓口 | 卒業する 大学等 | 認定を受けた 地方自治体(東京都、福岡市等) |
| 対象者 | 支援対象校の 卒業生(留学生) | 学歴・国籍不問(海外からの呼び寄せも可) |
| 在留期間 | 最長 2年 | 最長 1年(自治体により異なる) |
| 必要なもの | 大学の推薦・支援計画 | 自治体の起業活動確認証明書 |
【使い分けのポイント】
- 大学がSGU採択校などの場合: 期間が長く(2年)、大学の支援を受けられる「特定活動44号」が圧倒的に有利です。
- 大学が対象校でない場合: 起業予定地(東京都など)が実施している「スタートアップビザ」の利用を検討しましょう。ただし、両方の併用はできません。
失敗しないための申請スケジュールとステップ
在学中から卒業後までのタイムラインをイメージしましょう。卒業直前に動き出すのでは手遅れになることがあります。
Step 1: 在学中(卒業の6ヶ月〜1年前)
- 相談: 大学の留学生支援窓口やキャリアセンターへ行き、「特定活動44号を使って起業したい」と相談します。
- 確認: 自分の大学が「パターン2(最長2年)」の対象校かを確認します。
- 準備: 事業計画書の作成を開始します。先生や学内の起業支援プログラムを活用しましょう。
Step 2: 学内審査と書類作成(卒業1〜2ヶ月前)
- 審査: 作成した事業計画書を大学に提出し、推薦に値するかどうかの審査(面談やプレゼン)を受けます。
- 合意: 推薦が決まったら、大学担当者と一緒に「起業活動支援計画」を作成します。
Step 3: 卒業とビザ申請(卒業後すぐ)
- 申請: 卒業式で卒業証明書を受け取ったら、速やかに管轄の出入国在留管理局へ「在留資格変更許可申請」を行います。
- 注意: 必ず在留資格「留学」の期限が切れる前に申請してください。
Step 4: 許可・活動開始
- 交付: 審査期間(1〜2ヶ月程度)を経て許可が下りれば、「特定活動(6ヶ月)」の在留カードが交付されます。
- 更新: 6ヶ月ごとに大学の確認を受け、入管で更新手続きを行います(最長2年まで)。
膨大な提出書類を攻略する:必要書類詳細リスト
申請には、以下の書類が必要となります。特に大学側が用意する書類が多いのが特徴です。
【申請者が用意するもの】
- 在留資格変更許可申請書
- 写真(4cm×3cm)
- パスポート及び在留カード(提示)
- 卒業証明書(または卒業見込証明書)
- 申請人が作成した詳細な「事業計画書」
- 経費支弁能力を証する資料(銀行残高証明書、送金証明書など)
- 在学中の起業活動実績を示す資料(任意ですが重要です。コンテスト受賞歴や試作品など)
【大学等が用意するもの】
- 大学等が支援対象校であることを証する資料(SGU採択通知の写しなど)
- 大学等が作成した「起業活動支援計画書」
- 大学等が発行する「推薦状」
- 大学等による「誓約書」(入管指定様式)
ビザ取得後の義務と「経営・管理」ビザへのゴール
特定活動44号はあくまで「準備期間」です。ゴールは「経営・管理」ビザへの変更であり、事業の成功です。
しかし、2025年10月16日の改正により、この最終ゴールは非常に高い壁となりました。準備期間中に以下の厳しい要件をクリアする必要があります。
厳格化された新要件(2025年10月以降)
- 事業規模の拡大:資本金3,000万円以上
- 従来の500万円から大幅に引き上げられました。自己資金だけでなく、VCや投資家からの大規模な調達計画が必須となります。
- 常勤職員の雇用義務化:1名以上
- 以前は資本金が条件を満たせば雇用は任意でしたが、今後は日本人、永住者等の常勤職員を1名以上雇用することが必須です。
- 経営者の要件:経験または学歴
- 「経営管理経験3年以上」または「経営分野に関する修士以上の学位」が求められます。学部卒の留学生の場合、この要件がネックになる可能性があります。
- 日本語能力の証明
- 申請者本人または常勤職員のいずれかが、文化庁参照枠B2相当(JLPT N2相当以上)の日本語能力を有する必要があります。
- 事業計画書の専門家確認
- 事業計画書は、中小企業診断士や公認会計士などの専門家による確認が義務付けられました。
大学への報告義務
このビザは、大学があなたの「監督人」になることで成立しています。大学が定めた定期面談(月1回など)を無断で欠席したり、報告書を出さなかったりすると、大学は「支援継続不可」と判断し、入管に報告します。そうなればビザの更新は不許可となり、帰国せざるを得なくなります。
もし起業を断念したら?
事業がうまくいかず起業を諦める場合、「特定活動44号」の更新はできません。帰国するか、あるいは日本企業への就職(「技術・人文知識・国際業務」ビザ等への変更)を目指すことになります。
まとめ
「特定活動44号」は、優秀な留学生が日本で夢を叶えるための非常に強力な制度です。
- 最大のメリット: 卒業後、最長2年間という猶予期間を得て、厳格化した要件(3,000万円の資金調達など)に向けた準備ができる。
- 成功の条件: 大学との密接な連携、そしてプロフェッショナルによる事業計画の立案。
- 注意点: 最終ゴールである「経営・管理」ビザの難易度が極めて高いため、生半可な計画では到達できない。
この制度は、あなた一人で進めるには手続きが煩雑すぎたり、大学側への説明が難しかったりすることが多々あります。また、最終的な「経営・管理」ビザへの変更を見据えた事業計画を作るには、最新の法改正知識が不可欠です。
当事務所のサポート
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日本での起業は簡単な道のりではありませんが、正しい知識とパートナーがいれば、必ず道は開けます。まずは一度、専門家にご相談ください。



