経営・管理ビザ取得の要件と困難な理由
目次
はじめに
「日本で自分のビジネスを始めたいが、どのようなビザが必要なのか?」
「海外から赴任する役員のビザ手続きが、法改正でどう変わるのか知りたい」
「経営・管理ビザの取得が以前より格段に難しくなったと聞いたが、本当だろうか?」
これらは、日本での起業や事業展開を目指す外国人起業家の方や、グローバル企業の人事ご担当者様から、私たちが日常的にお受けする切実なご相談です。
国境を越えたビジネス展開が加速する現代において、外国人が日本で事業の経営者や管理者として活動するために「経営・管理ビザ」は不可欠な在留資格です。しかし、このビザは他の就労ビザと一線を画す複雑さと厳格な要件を伴い、特に2025年10月の法改正により、その取得ハードルはかつてなく高まっています。
結論から申し上げますと、経営・管理ビザの取得は、単に資本金を用意するだけでは到底不可能であり、事業の実現可能性、安定性・継続性の緻密な立証、そして大幅に引き上げられた新要件をクリアすることが絶対条件となります。
この記事では、日々多くのビザ申請に携わる専門家の視点から、「経営・管理ビザ」の根幹をなす各要件、最新の法改正を踏まえた取得のポイント、そしてなぜ取得が困難と言われるのか、その理由をケース別に徹底的に解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、最新の経営・管理ビザ制度に関するあらゆる疑問が解消され、日本でのビジネスを成功に導くための、確実で実践的な知識を得ることができます。
経営・管理ビザ取得の要件
経営・管理ビザを取得するためには、出入国在留管理庁が定める複数の厳格な要件をすべて満たす必要があります。その要件は、申請者の活動内容そのものに関するものと、事業の基盤に関するものに大別されます。
【主な要件一覧】
- 事業所の確保: 日本国内に独立した物理的な事業所が存在すること。
- 事業規模: 一定額以上の資本金または常勤職員数を満たすこと(2025年10月より大幅に厳格化)。
- 経営者・管理者の経歴: 一定期間以上の実務経験またはそれに準ずる学歴を有すること(2025年10月より新設)。
- 事業の適正性: 事業内容が日本の法令を遵守し、適正に運営されること。許認可が必要な場合は事前に取得していること。
- 事業の安定性・継続性: 事業が将来にわたって安定的に収益を上げ、継続していけることを事業計画書や決算書で客観的に証明すること。
これらの要件は、単に形式を整えるだけでなく、その実態が伴っているかが極めて厳しく審査されます。
経営・管理ビザ取得の要件の根拠条文
経営・管理ビザの要件は、主に以下の法律および省令に基づいています。
- 出入国管理及び難民認定法(入管法)別表第一の二の表
- 在留資格「経営・管理」として、「本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動」と定められています。これが、ビザの対象となる活動の根幹です。
- 出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令(上陸許可基準省令)
- この法務省令で、事業所の確保や事業規模など、具体的な基準(上陸許可基準)が詳細に規定されています。ビザ申請が許可されるか否かは、この省令に定められた基準を満たしているかどうかに大きく左右されます。
これらの法令は、日本で事業を行う外国人が、安定的かつ継続的な活動基盤を持っていることを確認し、日本の経済社会に健全な形で貢献することを促す目的で定められています。
経営・管理ビザ要件の理解がなぜ重要なのか
経営・管理ビザの要件を正しく、深く理解することは、コンプライアンス遵守と事業の成功に直結します。その重要性は、主に以下の2つの側面に集約されます。
第一に、法律違反のリスクを回避するためです。経営・管理ビザで許可される活動は、その名の通り「経営」または「管理」業務に限定されます。例えば、飲食店の経営者が人手不足を理由に、調理や接客といった現場業務(現業活動)を主として行うことは、許可された活動範囲からの逸脱と見なされる可能性があります。
これが発覚した場合、在留資格の更新が不許可になるだけでなく、最悪の場合は在留資格取消や退去強制(強制送還)の対象となり得ます。さらに、会社側も「不法就労助長罪」という極めて重い罪に問われるリスクがあり、事業の存続そのものが危ぶまれます。
第二に、事業計画の頓挫を防ぐためです。経営・管理ビザの審査は、提出された事業計画に基づき、その事業が「安定的かつ継続的に」運営される見込みがあるかを厳格に判断します。要件への理解が不十分なまま準備を進めると、申請が不許可となり、想定していた事業開始が大幅に遅延したり、最悪の場合、日本での起業を断念せざるを得ない事態に陥ります。
このように、経営・管理ビザの正しい知識は、外国人経営者自身と企業の双方にとって、事業の根幹を守るための生命線と言えるのです。
経営・管理ビザ取得の要件の完全解説
ここでは、ビザ取得の成否を分ける各要件について、2025年10月の法改正内容を反映させ、より深く掘り下げて解説します。
1. 事業所の確保:物理的・独立したスペースの存在
日本国内に、事業を営むための独立した事業所が確保されている必要があります。この「事業所」の要件は年々厳格化しており、特に注意が必要です。
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オフィス形態 |
許否の判断 |
留意点 |
|---|---|---|
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通常の賃貸オフィス |
〇 |
最も安定的で、問題が起きにくい形態。契約名義は法人名義が原則。 |
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自宅兼事務所 |
△ |
居住スペースと事業用スペースが入口、動線、郵便受け等を含め完全に分離・独立していることが絶対条件。リビングの一角などは認められません。 |
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シェアオフィス等 |
△ |
不特定多数が利用するオープンスペースは不可。パーテーション等で明確に区切られた施錠可能な個室ブースであれば認められる可能性があります。 |
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バーチャルオフィス |
× |
物理的な事業活動の実体がないため、原則として認められません。 |
賃貸借契約書においては、使用目的が「事務所」または「店舗」と明記されていること、契約期間が事業の継続性を示す上で短すぎないこと(通常1年以上)も重要な審査ポイントとなります。
2. 事業規模・経営者経歴:2025年10月からの新基準
2025年10月以降、事業規模と経営者自身の経歴に関する要件が大幅に厳格化されます。これは、より実体のある、質の高い事業と経営者を求めるという国の明確な方針の表れです。
【経営・管理ビザ 主要要件の新旧比較】
|
項目 |
現行制度(〜2025年9月) |
新制度(2025年10月〜) |
|---|---|---|
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資本金 |
500万円以上 |
3,000万円以上 |
|
常勤職員 |
上記資本金要件を満たさない場合、常勤職員2名以上 |
資本金要件に加え、常勤職員1名以上の雇用が必須 |
|
経営者の経歴 |
明確な要件なし |
3年以上の経営・管理経験、または経営・管理に関する修士相当以上の学位のいずれかが必須 |
新制度のポイント解説:
- 資本金3,000万円以上:
単なる形式的な金額ではなく、事業の安定性・継続性を担保する実質的な資金力として見られます。そして最も重要なのが、この資金の出所・形成過程の立証です。
単に通帳に3,000万円があるだけでは全く不十分で、給与からの貯蓄、資産売却、親族からの贈与など、その資金がどのようにして準備されたかを、過去の預金通帳の履歴、送金記録、契約書などで客観的かつ詳細に証明する必要があります。この立証が不十分な場合、「見せ金」と判断され不許可となります。
- 常勤職員1名以上の雇用:
経営者以外に、日本人、永住者、定住者等の在留資格を持つ常勤職員を1名以上雇用することが義務化されます。これにより、日本国内での雇用創出への貢献も評価基準となります。ビザ申請時点で、雇用契約を締結し、社会保険への加入手続きを完了している必要があります。 - 経営者の経歴要件:
申請者自身が事業を遂行する能力を有していることを客観的に示すため、3年以上の経営・管理経験(関連事業である必要はない)またはMBAのような経営・管理分野での修士以上の学位が求められます。職務経歴書や在籍証明書、卒業証明書等での証明が必要です。
3. 事業の安定性・継続性
これが審査の核心部分です。事業が絵に描いた餅ではなく、日本市場で現実に収益を上げ、継続していけることを論理的かつ客観的に示す必要があります。
- 新規事業の場合:
事業計画書の質がすべてを決定します。以下の要素を盛り込み、具体的かつ説得力のある内容に仕上げる必要があります。- 事業内容: 誰に、何を、どのように提供するのかを具体的に記述。
- 市場分析: ターゲット市場の規模、競合の状況、自社の強みなどを客観的データに基づいて分析。
- 販売戦略: 具体的なマーケティングおよび販売計画。
- 人員計画: どのような役職の従業員を何名雇用するかの計画。
- 財務計画: 詳細な収支計画(売上、原価、経費)、資金計画(自己資金、借入)を提示し、黒字化への道筋を明確にする。
- 既存事業の場合:
直近の決算書(貸借対照表、損益計算書)が審査の中心となります。2期連続で大幅な赤字であったり、債務超過(負債が資産を上回る状態)に陥っていたりする場合、事業の継続性が極めて疑わしく、ビザの更新が不許可となる可能性が非常に高くなります。
経営・管理ビザの取得が困難な理由
経営・管理ビザの取得が「難しい」と言われるのには、明確な理由があります。ここでは、その背景をケース別に解説します。
- 【理由1】要件そのもののハードルが極めて高い(特に法改正後)
前述の通り、2025年10月からの法改正は、ビザ取得のハードルを根本から引き上げました。資本金3,000万円、常勤職員1名以上の雇用、経営経験3年以上という要件は、特に個人で起業を目指す外国人にとっては非常に高い壁となります。十分な自己資金と経営実績を持つ、限られた層でなければ挑戦すること自体が難しくなっています。 - 【理由2】事業計画の「実現可能性」の立証が難しい
事業計画書は、単なる作文ではありません。入管の審査官は、数多くの事業計画を見てきたプロです。机上の空論や希望的観測に基づいた計画はすぐに見抜かれます。市場調査が甘い、収益予測の根拠が不明確、競合分析ができていない、といった計画では「事業の継続性なし」と判断されます。客観的なデータと論理に基づき、事業の成功を確信させるだけの説得力を持たせることが求められます。 - 【理由3】資本金の「形成過程」の証明でつまずくケースが多い
これは法改正以前から不許可の主要な原因の一つです。例えば、親族から一時的に資金を借りて通帳に入れ、申請後に返金するような「見せ金」を防ぐため、審査は極めて厳格です。数年間にわたる給与明細と預金通帳の履歴をすべて提出し、コツコツ貯蓄したことを証明したり、親族からの贈与であれば贈与契約書や送金記録を提出したりと、資金のクリーンさを一点の曇りなく証明する必要があります。海外からの送金が絡む場合はさらに複雑になります。 - 【理由4】手続きの連携が複雑で、専門知識が不可欠
経営・管理ビザの取得は、単独の手続きでは完結しません。- 会社設立登記(司法書士の領域)
- 営業許認可の取得(行政書士または各省庁)
-
ビザ申請(行政書士の領域)
これら複数の行政手続きを、適切な順序とタイミングで連携させて進める必要があります。例えば、会社が設立されなければビザ申請はできず、事務所の契約がなければ会社設立ができません。この複雑なプロセス全体を俯瞰し、管理・実行するには高度な専門知識が不可欠です。
- 【理由5】言語と商習慣の壁
申請書類はすべて日本語で作成する必要があり、事業計画書のように自らの事業構想を論理的に表現する能力が求められます。また、事務所の賃貸借契約や役所とのやり取りなど、日本の商習慣や行政手続きへの理解も必要です。これらの壁が、手続きをさらに困難なものにしています。
経営・管理ビザ申請の流れ
海外から来日し、新たに会社を設立してビザを申請する最も一般的なケースを例に、申請のフローを解説します。
- 【STEP 1】事業計画の具体化と協力者の確保
- 日本で行う事業内容、資金計画を詳細に策定します。
- 定款認証や資本金の受け入れ等で協力してくれる日本在住者(共同発起人、設立時取締役など)を探します。
- 【STEP 2】事務所の賃貸借契約
- 要件を満たす物件を日本国内で探し、賃貸借契約を締結します。(当初は発起人の個人名義で契約し、法人設立後に法人名義に切り替えるのが一般的です)
- 【STEP 3】会社設立手続き
- 定款作成・認証: 会社の基本規則である定款を作成し、公証役場で認証を受けます。
- 資本金の払込み: 日本在住の協力者の個人口座に、海外から資本金を送金し、払い込みます。
- 設立登記申請: 必要書類を揃え、法務局で会社の設立登記申請を行います。この登記が完了すると、会社が法的に成立します。
- 【STEP 4】法人設立後の各種届出
- 税務署、都道府県税事務所、市町村役場へ法人設立届出書などを提出します。
- 社会保険・労働保険の加入手続きを行います。
- 【STEP 5】営業許可の申請(必要な場合)
- 飲食店、古物商、人材紹介業など、事業に必要な営業許可を管轄の行政庁に申請し、取得します。
- 【STEP 6】在留資格認定証明書交付申請
- 全ての準備が整った段階で、会社の所在地を管轄する出入国在留管理局に対し、経営・管理ビザの本体申請を行います。
- 【STEP 7】審査・来日
- 入管による審査(通常3ヶ月〜6ヶ月程度)が行われます。
- 許可されると「在留資格認定証明書(CoE)」が交付されます。これを現地の日本大使館・領事館で査証(ビザ)に引き換え、来日します。
経営・管理ビザ取得後の重要な手続き
ビザは取得して終わりではありません。事業を継続し、日本に在留し続けるためには、以下の手続きが極めて重要です。
1. 在留期間の更新
経営・管理ビザには在留期間(初回は1年が通例)が定められており、期限が切れる前に**「在留期間更新許可申請」**が必要です。更新審査で最も重視されるのは、会社の決算状況と公的義務の履行状況です。
- 決算状況: 事業が計画通りに進捗し、安定的な収益を上げているか、役員報酬が適正に支払われているかが厳しく審査されます。特に2期連続の赤字や債務超過は、事業の継続性が無いと判断され、更新不許可の最大の要因となります。
- 公的義務の履行: 税金(法人税、住民税等)や社会保険料を滞納なく納付していることが絶対条件です。
業績が悪化している場合は、その理由と今後の改善策を盛り込んだ合理的な「事業改善計画書」などを提出し、事業継続の意思と能力を説得力をもって示さなければなりません。
2. 各種届出
役員の変更、本社の移転、会社の商号変更など、登記事項に変更があった場合は、法務局での変更登記とは別に、14日以内に出入国在留管理局への届出(所属機関に関する届出)が必要です。
3. 在留資格の取消し
以下のような場合、在留期間が残っていても在留資格が取り消されることがあります。
- 申請内容に虚偽があったことが発覚した場合。
- 正当な理由なく、経営・管理の活動を3ヶ月以上行っていない場合(会社が事実上の休眠状態など)。
- 許可された活動範囲外の活動(現業活動など)を主として行っていると判断された場合。
当事務所のサポート
本記事では、経営・管理ビザ制度の全体像を、最新の法改正情報を含めて網羅的に解説してきました。その要件の厳格さと、手続きの複雑性をご理解いただけたかと思います。
外国人起業家が日本でビジネスを成功させるための第一歩であるビザ手続きは、高度な専門知識と緻密な戦略、そして丁寧な立証作業が不可欠です。ご自身のケースで許可の見込みがあるか不安な方、手続きの進め方が分からない方は、自己判断で進める前に、ぜひ一度、私たちビザ専門の行政書士にご相談ください。
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- 経営・管理ビザ取得の可能性診断
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- ビザ取得後の更新手続きサポート
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